2-7 トランジションカーブを進むためにビジョンを役立てる

あなたがトランジションカーブのどこに向かっているのかを明確にしておくことは、変化に向けたトランジションの旅に役立ちます。 未来を見通すことは不可能なので、可能性を見出すことが必要です。ビジョンとは、手にできる最高の成果とは何かを明らかにする最良のアイデアです。

ビジョンを描くことで、変化におけるチャンスに気づくことができ、自分のエネルギーをそこに注ぐのに役立ちます。ビジョンを描くとは、明確なイメージを持つことと、変化を乗り越えることのベネフィットについて理解することが含まれます。個人的なビジョンは、変化の中での拠り所として機能します。変化に対する耐性が高まっていくにつれて、自身の安定感は内側からもたらされるようになり、外部の変化から受けるダメージが少なくなるのです。

ビジョンを描くことは、変化対応スキルの中核です。 将来を念頭におくと、そこから逆算して動くことができ、自分に起きているすべてのことが将来の成果につながっていることがわかります。変化した姿を想像して、そこに向けて進んでいく勇気を得ることができます。変化の始まりに直面する度に、いつもビジョンを描きましょう。

一方、あなたが拒絶の段階にいて、直面している変化を見たくない場合には、注意が必要です。そのような時には、ガイド役として他の人の助けを借り、あなただけでは想像することができないビジョンを描くようにしましょう。あなた自身が変化し始めると、変化を乗り越えていこうという感情が湧き上がってくるでしょう。ビジョンに向かって自分自身の思いを高めていくことは、自分や他人を無理やり拒絶の段階から前に推し進めようとすることよりも効果的なのです。

また、できるだけ肯定的なビジョンを描くことが重要です。人は自分の考えていることに従って行動する傾向があると言われているからです。暗くて魅力のない未来を想像すれば、そのようになってしまう可能性がより高いのです。 あなたが想像しているもの(または望むもの)に注意を払ってください。その通りの姿になるかもしれないのです。


あなたの未来を描く

あなたが直面している変化の今後を考えてみましょう。 時間をとり、自分自身をリラックスさせましょう。目を閉じて、その変化が実質的に完了した将来の時に注意を向けます。 少し時間をかけて、考えうる最高の成果を明確にしてみましょう。次の質問のそれぞれについて考えてみてください。

どのような状況ですか?

そこに誰がいますか?

あなたが学んだことは?

どのような気持ちですか?

あなたが変化したことに気づいているのは誰ですか?

あなたが想像したことを覚えておくために、それぞれの答えを書きとめておきましょう。

未来を思い出す

あなたが描いた未来のビジョンを忘れないように、スケッチを描いたり、写真を見つけたり、ビジョンを素早く思い出すツールとして使えるようなオブジェクトやキーワードを選びます。

これらを常に見える場所に置き、 肯定的なビジョンを思い出し、変化のプロセスの混乱からあなたを救い出すために役立ててください。

注:未来のビジョンが否定的またはがっかりするようなものの場合は、この作業を友人とやり直し、どんなものになるかを一緒に見てください。 十分な情報やリソースがないためにマイナスのビジョンになってしまうことがあるのです。 そんな時は立ち止まらず、助けを求めましょう。

やる気のフェーズの先にあるもの

変化に直面している時に経験するトランジションの4つのフェーズを進み、自分が何を達成したかを振り返ることによって、次のトランジションを開始するための基礎が確立されます。 あなたは、次の変化に取り組むためのスキルと持久力を備えることができるのです。 チェンジマスターとしてのスキルを身につけていくと、拒絶と抵抗の段階で過ごす時間が短縮され、より迅速に探求とやる気の段階に移行することができるようになるでしょう。

2-6 行き詰まりを避ける方法

トランジションカーブの4つのフェーズを経るには、変化の複雑さとあなたの変化対応の経験に応じて、数週間から数ヶ月かかることがあります。あなたが変化にもっと早く対応すべきなのにそうできないと感じることがあったとしても、焦らないでください。それと同時に、トランジションカーブの途中で行き詰まり、フェーズ4のやる気に進むことができなくなるような状況を避けなければなりません。

私たちは以下の3つのように、トランジションカーブの途中で行き詰まってしまうことがあります:

ターザンスイング: 
各フェーズをきちんと経ることなく、安易に変化をやり過ごす

抵抗に留まる:
抵抗のエーズから抜け出せない

各フェーズの間を行ったり来たりしてジグザグに進む  

“あなたが拒絶を乗り越えて機会を見出すにあたりどれだけ粘り強く取り組む必要があるかは、あなたの拒絶の大きさに比例する”

人はしばしば、変化に対する自身の抵抗の段階を最小限に抑えたいと思うものです。そのために、抵抗や探求の段階を経ずに拒絶からやる気に飛んでしまうことがあります。このような人は、変化が自分に何の影響も与えなかったかのように話したり振る舞いがちです。トランジションカーブを彼らの思う理想の形で渡っていきたいのです。

これを“ターザンスイング”といいます。ターザンスイングとは、喪失、怒り、欲求不満、混乱や、抵抗のフェーズと探求のフェーズの不確実性を経験することなく、トランジションカーブを拒絶からやる気へ(カーブを深く潜らずに)単に横切っていくと考えてください。

それらの感情を無視して飛び移ることで、ターザンは一時的にやる気のフェーズに達しますが、残念ながらそこに居続けることはできません。後にカーブを滑り落ち、経験しなかった抵抗と探求を体験することになるのです。真のやる気に至るには、回避ではなく、変化におけるトラジションのフェーズすべてを経験することによって到達できるのです。その一部を回避しては到達することはできません。

誰もが怒り、無力感、物事がはっきりしないことからくる居心地の悪さを感じたいとは思いません。しかし、ターザンスイングを試みて、トランジションカーブを行ったり来たりするよりは、段階的にトランジションカーブを動いていくことができれば、実際には移行プロセスに費やす時間を短くすることができるのです。

抵抗に留まる

抵抗を示すことで注目を集め、探求とやる気に進むのを避けようとする人たちがいます。 多くの場合、このような人たちの不満に耳を傾け、彼らをなんとかなだめすかして前に進ませようとします。こうしたことは最初のうちは歓迎され、受け入れられるかもしれませんが、他の人たちが探求の段階に入ると足枷になります。もし他の人があなたが取るそうした態度に疲れていることが見て取れたら、変化に対する本質的でない、単なる不満を言い過ぎていないかかどうかを検証する時かもしれません。

ジグザグ

特に次の段階に移ろうとする時、2つのフェーズを同時に経験することはよくあります。このようなジグザグは、1日の中でも起こり得ます。例えば、あるミーティングと次のミーティングとの間など。トランジションカーブをこのように移行することはよくあることで、次の段階に確実に移行することによってジグザグは終わります。

変化の過程で最も難しいのは、抵抗から探求へ移ることができない時です。それはその先に何があるのかを知る前に、周りを把握しようとするようなものです。探求への移行は、大抵の場合、そうした抵抗の気持ちがなくなった時に起こるのです。

2-5 抵抗を認める

変化の中では誰でも当たり前に抵抗のフェーズを経験します。誰もが邪魔をされたくはありません。これまで慣れ親しんできたやり方を手放すことは、ある種の終わりを意味し、今までうまくいっていたパターンは崩れてしまいます。抵抗のフェーズについて考えるうえでのヒントは、

人は変化に抵抗するのではなく、失うことに抵抗するのだ

と考えることです。

以下は人が抵抗する際のいくつかの理由です:

  • 期待が打ち砕かれたり、安心感が脅かされる
  • 自分の人生がコントロールできないかのように、無力感と不安を感じる
  • 自分が愚かに見えはしないかときまりが悪く、恥ずかしさや恐れを感じる
  • 変化による影響を理解するだけの十分な情報がない

抵抗は避けるべきものではありません。それは変化のフェーズを経験しているしるしとして認識することができます。自分の気持ちに耳を傾け、その声を行動していくドライバーとすることができるのです。

抵抗を克服する最も効果的な方法は、自分の気持ちを認め、他の人にそれを話すことです。似たような変化に直面している、あるいは直面していた人と気持ちを分かち合うことは特に助けとなるでしょう。話しをした後、自分が楽観的になり、希望が持てることに気づくことがよくあります。これはあなたが探求のフェーズに入っていこうとする兆候です。

抵抗を理解する

あなたが直面している変化について考えてみましょう。あなたがこの変化に対して抵抗を感じるもっともな理由をいくつか挙げてください。

失いつつあるものは何か?

どんなパターンが崩れているのか?

期待はどのように変わってきたか?

変化を捉える上で影響を与える個人的な状況や事情とは?

2-4 変化の4つのフェーズ

心理曲線を乗り越える速度や切迫感は人によって違いがありますが、普通すべての個人、チーム、そして組織は4つのフェーズのすべてを通ります。それぞれのフェーズについて、詳細に見ていきましょう。

フェーズ 1: 拒絶(Denial)

著しいあるいは予期せぬ変化に対する最初の反応は、たいていの場合ショック- 情報を認識することに対する一般的な拒絶 – となって現れます。このように、私たちは変化に圧倒されないように自分自身を守るのです。通常の反応は以下の通りです:                                                         

拒絶 ”そんなことが起きるわけがない”     
無視 ”騒ぎが収まるまで様子を見よう”   
軽視 ”ほんの小さな調整に過ぎない”     

拒絶のフェーズでは、引き続き生産的なペースで仕事をすることが可能です。しかし、遅かれ早かれ、変化による影響が現れ始め、人々は喪失や抵抗による混乱を経験することになります。                                                           

フェーズ2: 抵抗(Resistance)

このフェーズでは、事態は悪くなっていくように見えます。個人的な苦痛のレベルは上がります。新しい組織について非難や不満を言う対象となる個人や出来事を探しては時間を無駄にすることがよくあります。身体的、感情的、精神的にも様々な症状を感じるかもしれません。自分は変化の中で生き残ることができるのだろうかと、自分の能力を疑うこともあります。このフェーズでは、未来に向けて準備をすることよりも、失いつつある過去を嘆き悲しみます。多くの場合、耐えきれずに拒絶のフェーズに戻って、あたかも何も起こっていないかのように振る舞うことがあります。この段階では自分の感情と向き合うことが、次のフェーズにより速く移る手立てとなります。   

フェーズ3:探求(Exploration)

もがき苦しんだ後、個人も組織も負の状態から脱し、一息ついて、やっとポジティブな希望ある未来に意識が向きます。すると、「きっと大丈夫」という感覚が湧いてきます。 この感覚は気分が良いといったほんの些細な気持ちの変化からわかることもあれば、変化が始まって以来初めて夜ぐっすり寝ることができたといった、非常に明らかなことからわかるものもあります。タイミングは人によって様々で、その状態になった時にはわかります。 
 

新しい方向性はすべてが一度に見えてくるわけではありません。まず最初に新しいことをやってみようとする意欲が湧いてきます。あなたは新しいやり方を発見したり、探求し始めます。目標を明確にし、必要なリソースを検討し、代替案を探し、新たな可能性を試します。正しいやり方よりも、とにかく動き始めることに気持ちが向きます。ここでは自分の持つ能力以下のことに甘んじたり、探求のフェーズをあまりにも早く終えることは避けるべきです。このフェーズは高いエネルギーを必要とし、あなたの創造性もピークとなるでしょう。

フェーズ4: やる気(Commitment)

ついに、人々は困難を乗り越え、新たなやり方を見出し、そして新しい状況に適応します。自分たちの仕事に新たな機会と、新たなエネルギーを見出します。組織は新たなビジョンとより高いパフォーマンスにフォーカスします。やる気(Commitment)のフェーズは、新たな行動指針にフォーカスすることによって始まります。それは新たなやり方で仕事をすることや、新たな仕事を探すことかもしれません。あなたが新たなアクションを起こすことを自分自身にコミットできた時、そこには成長と適応があるのです。  

絶えず続く変化

トランジションのサイクルは終わることはありません。生きている限り、あなたは変化を継続的に経験し、新たなチャレンジと危機に直面するでしょう。一つの変化を終えるより前に、新たな変化に直面することがあるかもしれません。いくつかの変化が同時進行することも珍しくはありません。変化に圧倒されてしまわないよう、どの時点においても乗り越えようとしている個人的、および組織的な変化がどのくらいあるのかを認識しておくことは大切です。

あなたはトランジションカーブのどこにいますか?
あなたは今トランジションカーブのどこにいるのか、考えてみましょう。現在直面している、もしくは最近経験した大きな変化について考えてください。

次に、この変化に対してあなたはどのように反応しているかを考えてみます。

あなたが最近、近々やって来る変化について聞いたことがあるとしたら、拒絶(Denial)か抵抗(Resistance)にいるかもしれません。あなたは自分はすでにやる気(Commitment)にいると考える(あるいは思いたい)かもしれませんが、やる気のフェーズに行くまでには時間がかかるものです。もしあなたが組織変革の只中にいて、自分のチームや経営陣よりも先のフェーズに進んでいる場合、それはあなたをさらに苦しめるかもしれません。たとえあなたがチームメンバーと足並みを揃えたいと思っても、彼らは、自分が経験している変化の数やそれぞれが持つパーソナルフィルターによって、異なるスピードで動いているかもしれないのです。

それぞれのフェーズの兆候を理解する

トランジションカーブの各フェーズには、兆候があります。下記にある各フェーズの兆候に注意してみましょう。

2-3 変化をナビゲートする

何年もの間、多くの西洋人は“危機”という漢字には危険と機会の両方の意味があると考えてきました。

この“危機”という漢字は、ジョン.F.ケネデイやニクソン、ライス元国務長官そしてアル・ゴアといった著名人が使ってきました。これが“危機”という漢字の正確な訳ではないにしろ、変化にも危険と機会という二つの意味が含まれるという考えは深遠で興味をそそる概念であり、この物語が半世紀以上にわたって人気があるのもうなずけます。

この二面性は変化にもともと備わっている性質です。私たちは変化に対して両方の側面から反応します。変化の道のりはスムーズであることなどほとんどなく、予測も難しいものです。私たちが変化に対して最初にやるべきことは、変化の必要性を認識し、これまでの古いやり方を捨てることです(拒絶から目覚める)。その過程では感情的になり、もがくこともしょっちゅうあります(抵抗)。変わることの必要性をしっかり認識した後は、古いやり方をあきらめて、新しい機会に集中し始めることに私たちのエネルギーは向かいます(探求)。そうすることで変化を乗り越えるための戦略を練ることができ、行動を起こすことにコミットします(やる気)。

変化とその過程をナビゲートするとは、以下に示す4つのフェーズからなる心理曲線を進んでいくということです。

2-2 自分のパーソナルフィルターを理解する

あなたが現在人生のどの段階にいるかによって、変化に対する反応は異なってくるでしょう。若い人たちの方が簡単に変わることができるというのは本当でしょうか?人生の初期段階では大問題と思えたことが、後になってから大したことではないと思えることもあります。さらに、若い人が初めての仕事をするための能力をやっとの思いで身につけた場合、彼らにとってその仕事を“手放す”ことは難しいかもしれません。

たくさんの変化を経験した人は、広い視野で物事を受け止めることができ、後の人生でより大きな変化に対応できるようになります。

確かに、誰もが自分自身の独自の物の見方、すなわちパーソナルフィルターを持っているために、変化に対してそれぞれユニークな方法で対応しています。これらのフィルターは私たちのこれまでの人生や経験からくるものです。人はパーソナルフィルターによって、同じ変化を隣の人とは違うように経験するという説明がつくわけです。

経験がもたらす効果

あなたが自分の過去の経験を理解すればするほど、同じ変化を自分とは異なる形で経験するかもしれない他の人に対する思いやりの気持ちが高まります。

以下のそれぞれの領域において、あなたの特徴とは何ですか?
これまでの自分史  (大きな喪失,大きな変化) :

 

所属する集団の歴史(家族や集団の一員として直面したこと):     

性別 (男性、女性による違い):   

民族(人種や民族による違い): 

ライフステージ(ライフサイクルのどこにいるのか)

2-1 変化に対して心を開く

変化を乗り越えていくことは、決して楽ではありませんし、痛みが伴います。たとえそれが、心踊るワクワクするような変化であったとしても、私たちに何かを“手放すこと”や難しい選択を要求します。この章では、変化を経験していく過程であなたが必ず通る心の動きのフェーズについてご紹介します。これにより変化においてどんなことが自分自身に起きるのか、予測できるようになります。

ライフサイクルを通しての変化

あなたの人生にはいくつもの予測することができる変化があります。この世に生まれた後、幼少期や青年期・思春期を経て、大人になっていきます。そして、就職し、恋人ができ、家族ができ、仕事を通じて成長し、子供を育て、両親を看取り、キャリアの転換があり、引退の日を迎えます。

ところが、私たちの親世代の頃に比べて、今日、私たちの生活はより複雑で、予測不可能になっています。私たちの多くは私生活においても仕事においても、たくさんの迷いや混乱を経験しています。たとえば、グローバル社会において今世紀の労働者は、生涯4つか5つの異なるキャリアを持つだろうと言われています。欧米では定年退職するまで同じ会社に勤めている人はほとんどいません。日本でも経団連の中西会長が2019年5月7日の定例会見で終身雇用を前提にすることは限界になっていると述べた通り、人材の流動化が今後ますます顕著になってくるでしょう。採用と大学教育の未来に関する産学協議会では「Socitety 5.0人材育成分科会」の中で、今後求められる人材像と教育のあり方が議論されています。私たちは学校教育の中だけではなく、継続的に生涯にわたって学習することが求められているのです。

仕事を変えるということは、あなたに学ぶことや新たな方向性に対しオープンであることを求めます。そしてどのように新しいことを始め、古いことに別れを告げるかを知ることでもあります。これらの始まりや終わりを、できるだけ混乱やストレスなくナビゲートできるようになることが、この章のねらいです。

人生は予測可能な変化であふれています – 仕事の変化、人間関係の変化、住環境の変化、死、誕生、など。

予測する
あなたが現在人生のどこにいるかをベースに、近い将来あなたが経験するであろう変化について考えてみましょう。それはどのような変化ですか?

変化に対しどのように反応してきましたか?

これまでにあなたが経験した主な出来事– 良かったことも、悪かったことも – を思い返してみましょう。その中から1つの出来事を選び、以下の質問に答えてください。

・これから先、大きな変化がくることを、どのようにして気づきましたか?

・その変化に対して、どのように備えましたか?

・あなたが直面した最も強い恐れや困難は何でしたか?

・これらの恐れや困難をどのようにして乗り越えましたか?

・変化を乗り越える際に、どんな思いを抱いたり、どんな行動をしましたか?

・変化をマネージするために、あなたが学ぶ必要があったのはどんなことでしたか?